泥より出でて泥に染まらず

底なし沼で立ち泳ぎしてるアラサー女のぼやき。

デリヘル入店というクリスマスプレゼント

「あのー…お金、大丈夫?」

昨日、結局お客さんがゼロだった私に店長が聞いてきた。

「大丈夫じゃないです」

交通費として貰った千円札をいそいそと財布にしまいながら、私は正直に答えた。お店に出勤するのに往復千円以上かかっているからこれでも数百円のマイナスになる。

元々出勤日数も少ない上に収入ナシの日ばかりだと、流石に厳しい。


そこで私の諸々の事情を知っている店長は、もし良かったらこっちもやってみる?と系列店を紹介してくれた。

そこはいわゆるデリヘル店だ。いま在籍しているオナクラ店よりも稼げるという。

系列店があるとは知らなかったので、思いもよらない提案に驚いた。

というのも、実はいまのお店だけではやっていけそうにないからと、できるだけライトな違うお店との掛け持ちを考えて面接を受けたりしていたところだったからだ。


当然、私は二つ返事で入店を決めた。

デリヘルは昔少しだけやったことがあって、その時は指入れが嫌で辞めたのだけど、指入れはNGにできるとのことだったので即決してしまった。

トントン拍子で話は進み、パネル用の写真撮影もして、そっちのお店用の新しい名前も決まった。

少しでも早く稼ぎたい私にとってはありがたいことだった。


その店のサイトでサービス内容を確認しながら、大抵のことに抵抗を持たなくなっている自分の感覚は麻痺していておかしいんだろうな、と思った。

初めて会う男の人の前で服を脱ぐことも、キスをすることも、触られたり触ったりすることも、なんだか別にどうでも良くなっていた。

それはお仕事として安全な枠組みの中でしていることだからこそというのもあるんだろうけど。


帰りの電車で、付き合いたてらしい高校生のカップルが仲良く並んで話をしていた。初々しくて微笑ましくてなんだか眩しい。

私もあんな頃があったっけ、なんて記憶を辿ってみたけれど、確かにそんな頃もあったけど、もっともっと昔の時点で私の一部は既に壊れていたんだった。


ファーストキスも、初めて身体の大事なところを誰かに触らせるのも、私は不本意な形で迎えて失った。

多分その時から私はどこか諦めていたんだと思う。

自分の意に反して性的な対象として扱われることがなぜか多く、嫌な思いも怖い思いもたくさんしてきた。

きっとその反動で私は私自身を軽く見なして安売りしてしまうのだろう。

どうせ私なんて。どうせ女なんて。そんな意識が私の奥底にきっとこびりついているのだ。


そんな私を説教したがる人はきっとたくさんいると思う。

だけど私は、今とにかく稼ぎたいのだ。

とりあえずある程度の蓄えを作って、ほんの少しでいいから安心したい。

お金がないことほど心許なく不安なことはない。それがメンタルの調子を左右することだってある。

今の私にはいろんな余裕がない。だからいろんなものを見ないフリして、一本の糸に縋るしかない。


いわゆる普通の仕事をしている人たちを私は尊敬する。

でも水商売や風俗を卑しい仕事とは思いたくないし、そこで従事してる人たちはみんなそれなりにプライドを持ってやってる。

だから私は、そういう人たちのことも尊敬する。


パネル写真撮影の時、雑談の中で店長が言った。

「本当はやりたい仕事とか、あったりするの?」

本当は、私が本当にやりたいことは…

「…わかんないです。やりたいこととか、やれることとか、色々考えるけど、でもよく分からないんです」

答えが出ないのか、答えを出したくないのか、もう私はそれすら分からない。